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日本企業のテレワーク導入率と課題
テレワークとは、「テレ(Tele=離れた場所)」と「ワーク(Work=働く)」を組み合わせた造語で、従来のオフィスを離れて、さまざまな場所で働くワークスタイルのことを指します。情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用することで、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方ができるのです。
近年の日本企業におけるテレワーク導入率は19.1%
近年の日本企業のテレワーク導入率は、総務省の「平成30年通信利用動向調査」によると、19.1%です。導入済みのテレワーク形態は、営業活動など外出先で業務を行う「モバイルワーク」が63.5%、「在宅勤務」が37.6%、本社以外のワークスペースで働く「サテライトオフィス勤務」が11.1%となっています。
新型コロナウイルス感染拡大の予防でテレワークを実施した正社員は47.8%
新型コロナウイルス感染拡大の予防策として、テレワークを実施する企業が拡大しています。
2020年3月23日に発表された株式会社パーソル総合研究所の、全国2万人規模の正社員を対象に行った「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」の結果発表によると、次のような結果が判明しました。
- 正社員におけるテレワーク(在宅勤務)の実施率は2%(推計360万人)
- そのうち約半数の8%が、現在の会社で初めてテレワークを実施
また、「テレワークを希望しているができていない」と回答した割合は33.7%で、テレワーク実施について何らかの障壁があることが分かりました。
テレワークを実施していない理由には次のような点が挙げられました。
もともとテレワークに向いていない業務であることが理由なのを除けば、急激な社会情勢の変化に対応し切れておらず、社内制度やICT環境の整備に課題が生じていることが見てとれます。
また、テレワークという働き方に対する、上司や従業員本人、企業文化にも課題があるようです。
テレワーク導入の手順とポイント
それでは、企業がテレワークを導入する際、適切な導入手順はどのようなものなのでしょうか?次項でポイントを簡単に見てみましょう。
導入手順と7つのステップ
厚生労働省が公表しているハンドブック「テレワークではじめる働き方改革」によれば、企業がテレワークを導入するには、次のようなステップを踏むことがポイントであると言います。
- テレワークの全体像をつかむ
まず、テレワークの対象となる事業や業務がどれだけあるのか、どれくらいの従業員がテレワークの対象になり得るのかなど、自社におけるテレワークの全体像を洗い出す必要があります。導入にあたっては社内で旗振り役となる部署や担当者を決定します。 - 全体方針を決定する
テレワークを行う上での基本方針(テレワーク・ポリシー)を策定して、全体方針を決めます。 - ルールをつくる
テレワークの対象業務と対象者、実施頻度などの具体的な社内ルールを策定します。 - ICT環境を整備する
利用端末やサーバ設定、クラウド型のアプリケーションの活用など、テレワークを可能にするためのICT環境を整えます。 - セキュリティ対策をする
セキュリティ対策ならびに情報漏えいを起こさせないためのルールを策定するとともに、社員のモラル教育も同時に進めます。 - テレワークを試験実施して評価、環境やルールを改善する
導入までの用意がすべて完了したら、まずは少人数でテレワークを試験的に実施してみて、検討・検証します。 - テレワークを拡充・運用する
試験実施で発見した課題を解消しながら、対象者を段階的に拡充させて、最終的には対象を全社に広げます。
社内への環境整備を見たところで、次項からはルール策定やセキュリティ対策についてのガイドラインのポイントを見ていきましょう。
関連法令やルールなど導入ポイント・注意点
テレワーク導入にあたっては、関連法令の遵守、セキュリティ対策の整備、遠隔地同士でも業務上のコミュニケーションがとれるようなICT環境整備など、いくつかの注意すべきポイントがあります。次項から各ポイントについて詳しく解説していきます。
1.「テレワーク」の労務管理・勤怠管理と労働基準法
テレワークも通常の在社勤務と同様に労働基準法の適用対象になるため、労務管理上の社内ルールを整えなければなりません。特に在宅勤務では勤務時間とプライベートな時間の切り分けが難しく、勤怠管理方法をきちんと決めておくことが大切になってきます。
また、テレワークでは「何時間働いたのか」ではなく「どんな成果物ができたのか」で評価せざるを得ず、人事的な評価基準が難しくなります。ほかにも、テレワーク中のコスト負担の精算方法や、労災保険の適用など、社内で事前に決めておくべきルールは適切に対応しておく必要があります。
【テレワークに関連する法規と、決めるべき社内ルール】
・労働基準法が適用される
・就業規則の規定が必要(テレワーク勤務規定など)
※一定条件の事業所では、就業規則の作成・改定は所轄労働基準監督署への届け出が義務化されている。
・テレワーク実施の申請と承認方法
・勤怠管理(始業・就業時間)、業務管理など労務管理の方法
・テレワーク時のコスト負担(利用端末や電話、インターネット回線など)
・テレワーク時の労災保険の適用
2.セキュリティ対策とセキュリティポリシーの整備
テレワークでは、従業員が通常とは異なる場所で働くことになるため、情報漏えいやウイルス対策などのセキュリティ対策が不可欠です。
例えば、自宅のパソコンの使用を許可する場合には、データ管理方法やウイルス対策、部外者が簡単に業務データへアクセスできないようにするなど、物理的な対策と、運用ルールでの対策の両面が求められます。ルールがあっても守られなければ意味がないため、セキュリティポリシーについて全社員を対象に改めて周知徹底が必要です。
【テレワーク実施時に行うべきセキュリティ対策】
・セキュリティガイドラインの策定
・セキュリティルール・情報管理ルールの策定
・社員へのセキュリティ教育の徹底
・技術的なセキュリティ対策(アクセス管理・制限、HDD暗号化、USBメモリの対策など)
・運用上のセキュリティ対策(電子データの原本保存、ウイルス対策ソフト)
・ネットワークのセキュリティ対策(安全な回線、サーバ証明書)
・物理的なセキュリティ対策(サテライトオフィスの監視カメラ設置や入退室管理、ペーパーレス化など)
3.コミュニケーションツールの導入・活用
上司への勤務報告や、同僚との打ち合わせや会議など、テレワークにはコミュニケーションのためのツールが不可欠です。
ノートパソコンやスマートフォンの貸与・支給に加え、オンラインで利用できる各種Webサービル・ツールを活用することでテレワークがスムーズに行えるようになります。お互いに顔を見ながら話せるWeb会議システムのように、離れた場所にいても社内と同じようなコミュニケーションがとれるツールもあります。
テレワークを円滑にさせるコミュニケーションツール・サービスには、主に次のようなものが挙げられます。
【テレワークに便利なコミュニケーションツール・サービス】
・会議システム(Zoom、Skype、Googleハングアウトなど)
・Eメール、チャットツール
・データ共有ツール(Googleドライブ、DropBoxなど)
・グループウェア
・クラウド型サービス・ツール(場所や端末を選ばすデータへのアクセスが可能)
「テレワーク」導入にあたって役立つ国のガイドライン
テレワークを自社に導入する際には、各官公庁がガイドラインを発行していますので、ぜひ参考にしてください。
全体の推進計画の立案から必要なフロー整備など、テレワーク導入前に決めなければならないことがたくさんありますが、ガイドラインでは分かりやすく紹介されています。主だったテレワークのガイドライン・手順書についてご紹介します。
『テレワークではじめる働き方改革』(厚生労働省)
厚生労働省が発行する『テレワークではじめる働き方改革』は、働き方改革の観点からテレワーク導入の意義や導入手順を解説しているガイドブックです。
テレワークの基礎知識の解説から導入手順までを、「基礎編」と「実践編」にわけて分かりやすく解説しています。
【対象となる部門・担当者】
経営者、人事・総務担当者、管理職、情報システム担当者
【読むと分かること】
・テレワークに関する基礎知識
・テレワークのモデル類型
・テレワークの導入手順(5ステップ)
・各ステップごとの詳細解説 など
【ガイドライン公表元】
厚生労働省
【参照URL】
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/01_01.pdf
『テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン』(厚生労働省)
厚生労働省が発行する『テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン』は、テレワークを活用する企業と従業員に向けて、労働基準法に照らし合わせた適切な労務管理方法について解説しています。
社外で従業員が業務をする上で必要な人事労務管理の留意点について、法令遵守の観点からまとめられているため、人事・総務担当者や管理職が事前に理解をしておくことが求められます。
【対象となる部門・担当者】
経営者、人事・総務担当者、管理職
【読むと分かること】
・労働基準法の適用とその留意点
・テレワークを導入する際の労務管理方法
・労働安全衛生法の適用とその留意点
・テレワークの長時間労働対策
・労働災害(労災)の補償に関する留意点 など
【ガイドライン公表元】
厚生労働省
【参照URL】
https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf
『テレワーク モデル就業規則~作成の手引き~』(厚生労働省)
厚生労働省が発行する『テレワークモデル就業規則~作成の手引き』は、テレワークを導入する際、盛り込むべき就業規則の規定について解説しているガイドラインです。
従業員がテレワークで働く場合も、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法など労働基準関係法令が適用されます。一定条件を満たす事業所では就業規則の作成・労働基準監督署への届け出が労働基準法により義務付けられています。
実際の規定例を示しながら、関係法令遵守の留意点などを解説しています。
【対象となる部門・担当者】
経営者、人事・総務担当者、管理職
【読むと分かること】
・就業規則が必要な理由
・テレワーク時の労働基準関係法令の適用とその留意点
・テレワーク導入にあたっての就業規則の規定例(ケース別)
【ガイドライン公表元】
厚生労働省
【参照URL】
https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf
『テレワークセキュリティガイドライン(第3版)』(総務省)
総務省が発行する『テレワークセキュリティガイドライン(第3版)』は、テレワーク導入にあたって実践すべきセキュリティ対策についてまとめたものです。情報セキュリティマネジメントのための国際標準JIS Q 27002規格の考え方をベースに、セキュリティ対策の専門家でもなくても内容が分かるように簡単に解説されています。
【対象となる部門・担当者】
経営者、管理職、情報システム担当者
【読むと分かること】
・テレワーク導入における情報セキュリティ対策の考え方
・セキュリティ対策のポイント(経営者・情報システム担当者・従業員別)
・コンピューターウイルス感染、パソコン紛失、重要情報の盗聴、不正侵入などケース別対策
【ガイドライン公表元】
総務省
『情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書』(総務省)
総務省が発行する『情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書』は、テレワーク環境を構築する情報システム担当者に向けた導入の手引きです。
テレワークの概要からセキュリティ対策についての考え方、構築すべきICT環境まで、包括的にまとめられているガイドラインです。
【対象となる部門・担当者】
経営者、情報システム担当者
【読むと分かること】
・情報システム担当者が知るべきテレワークの概要
・セキュリティ対策の概要と進め方
・セキュリティ対策に関するルール策定などの整備方法
・構築すべきICT環境と導入環境のポイント
・テレワーク推進のための評価と改善のポイント
【ガイドライン公表元】
総務省
手順書やガイドラインを参考に、適切なテレワーク導入を
テレワークの適切な導入にあたっては、企業の導入方針策定をはじめ、ICT環境の整備、人事労務管理やセキュリティ対策のルール整備など、さまざまなステップがあります。
その実現は、従業員へのセキュリティ対策の啓蒙などに代表されるように、担当者一人で推し進められるものではありません。ここでご紹介した手順書やガイドラインを参考に、経営者や情報システム担当者をはじめ、社内の推進担当チーム一丸となって組織的に進めることが大切です。
何から手をつけて良いのか分からないという場合は、厚生労働省、経済産業省、総務省、官公庁関連団体、地方自治体、商工会議所、各種テレワークサービス提供民間企業などに支援・相談窓口がありますので、ぜひこの機会に相談してみてはいかがでしょうか。