はじめに
土を耕し、種をまき、そこに雨が降って、風が吹き、やがて実りを迎える農の営み。元々、狩猟民族ではなく、農耕民族である私たちにとって、農業は元来ほっとする生業であるに違いない。最近では、若者の間でも農業に携わる機会が増え、都心を離れ、郊外や田舎に暮らし、自分たちのアイデンティティにあった生活スタイルを求める流れもできている。また、国としても、後継者を育てるという意味で、農業を始めたい人を支援するプロジェクトが進む中、農業に携わる人たちは、確実に変化している。
農業×名刺
仕事を持つ人の間では持っているのが当たり前のものだが、農業者では名刺を持っている人は、むしろ少数派だった。けれども今、名刺を持つ農業者はどんどん増えている。中には肩書きの違う複数の名刺を持つ農業者もいる。ある農業者は、地元の若手農業者にも名刺を持つよう勧めている。「お前の自慢できる作物は何だ?」。名刺づくりの前に、まずはそう問いかける。問われて答えを探そうと頭の中を整理してみることで、自分の目指す農業の姿がはっきりと見えてくることもあるという。名刺は想いを伝えるツールであり、農作物を作っている人の顔といえるだろう。
農業名刺いろいろ
若者から、おじいちゃん、おばあちゃんまでが、汗をかきながら畑を耕している。そこで見る景色は、自然の匂いに吹かれ、いろいろな色の果物や形の違う作物で溢れている。そのような環境で働く人たちの名刺って、どうようなものだろうかと想像してみる。ここではデザイン性に富んだ、ユニークな名刺をいくつか紹介してみよう。名刺からも、農業のイメージも変わるのではないだろうか。
さくらんぼ農家の名刺の場合
表は誠実な感じでシンプル。一見普通だけれど、よく見ると二つ折りになっていて、開くと遊園地みたいな楽しいイラスト。大人もこどもも、なんか癒される名刺は、ビジネスシーンにもいいし、観光農園にやってきたこども連れ家族にとっても楽しい気持ちになる。
農業コンサルティングの会社の場合
地が段ボールのような素材で、通常の2倍以上の厚みがある名刺。農業への“熱い”志と、作物が育つ土の“厚み”で、農業への想いを表している。この会社では、名刺の由来を聞かれた時に、会社の理念を織り交ぜて話すことができるとか。
イチゴ農園を経営する会社の名刺の場合
名刺というよりは折り紙で、開いてみると3枚のカードが…。農園やイチゴの紹介が書いてある。最後の3枚目の下は、「お客様への心からの満足を提供します(以後省略)」という、会社の経営理念。会社、社長、農園、イチゴ、色々なことに興味がわいてしまう。名刺も社長も、絶対に忘れない。
農業を学ぶ
最近では、社会人に開かれた大学講座が多くある中で、ビジネスパーソンにとって貴重な、朝の自由時間を利用した、丸の内朝大学のような学び場がある。東日本大震災以降は、農業復興プロジェクトを始め、いくつかの農業関連のカリキュラムが企画され、名刺交換をする機会も多いと言う。知り合った仲間と農業風景の写真を入れた名刺で、楽しさを口コミで伝えるなど、気持ちのこもった活動をしている。
おわりに
種をまき、汗を流しながら畑を耕し、予想外の天候に左右されながらも、期待しながら収穫の時期を待つ。農家の人たちの名刺を持つ手には、農の営みの過程で付いたであろう「土」を見る時があります。農業を名刺という視点で捉えてみましたが、いろいろな工夫の中にも、生活の営みのソウルの部分、そして仕事の営業の基本をみたような気がします。